[ 第1回 ] 全体を評価していただいたのが、うれしい。
根岸吉太郎が日活に入社したのは1974年、ロマンポルノが花咲いていた調布撮影所だった。映画産業が斜陽化する中でメジャー各社は大卒の新規採用を見送っていたが、月に4,5本の新作を製作して配給していた日活だけが助監督を公募し、根岸と池田敏春がその1期生となった。
ロマンポルノ作品が一様に挑発的なエロチック・シーンを並べたものと考えるのは世俗的な誤解で、芸術映画なんぞは目指さなくとも、真摯に世相風俗を描く作品は決して少なくなかった。根岸はそのデビュー作『オリオンの殺意より/情事の方程式』からすでに、正統派ドラマの中にロマンポルノの必須要件を描き込んでいるように思われた。刺激的な場面が少ないといった意味ではない。彼はロマンポルノの枠の中であっても、最初から自分の映画を撮ろうとしていたはずである。
今回、第61回毎日映画コンクールで監督賞を受けた。「うれしい」と率直に言う。根岸にしてみれば遅すぎる初受賞だったはずである。「こんな大きな賞をもらうのは初めて。生きているうちにもらえた、うれしいのは本音。脚本賞、男優主演賞をはじめ、いくつもの部門賞で受賞した。全体を評価していただけたのだと思う。それがうれしい」
1950年、東京都生まれ。74年早稲田大学第一文学部演劇学科卒業、日活に助監督として入社。藤田敏八、曽根中生に師事。78年日活作品『オリオンの殺意より、情事の方程式』で監督デビュー、『遠雷』(81)でブルーリボン賞監督賞、芸術祭選奨新人賞を受賞した。その後も『探偵物語』『ウホッホ探検隊』『永遠の1/2』などの作品で着実に評価を高めていく。1990年代中ごろは映画製作から離れていたが1998年に『絆』で復活。鋭い時代の切り取り方、確かな作劇術、細かい演出力、描写力は特に高い評価を得ている。2006年『雪に願うこと』で東京国際映画祭の4部門、第61回毎日映画コンクール監督賞を受賞した。