[ 第3回 ] 根岸吉太郎と風見章子
なお,今回の毎日映画コンクールで特別賞を受けた大ベテラン女優の風見章子は、昭和14年の日活多摩川作品『土』(内田吐夢監督)が出世作だった。浅草の喜劇の女優から映画への転身を目指していた風見は『土』の田舎娘役に抜擢された。小杉勇演ずる貧農の主人公勘次の娘役に当時の撮影所長だった根岸寛一は、内田監督が候補としてあげた風見を率先して推薦した。根岸吉太郎の大叔父である(祖父の妹婿)。都新聞の記者から転じて浅草オペラを興した根岸興行の中心人物で、日活が現代劇製作を再開するべく京王沿線に撮影所をつくると、寛一は所長として映画界に転じた。根岸吉太郎と風見章子が奇しくも表彰式の舞台に並ぶことになった。
日本映画史の至宝と血脈がそこに見事に輝いたのである。
(松島利行)
1950年、東京都生まれ。74年早稲田大学第一文学部演劇学科卒業、日活に助監督として入社。藤田敏八、曽根中生に師事。78年日活作品『オリオンの殺意より、情事の方程式』で監督デビュー、『遠雷』(81)でブルーリボン賞監督賞、芸術祭選奨新人賞を受賞した。その後も『探偵物語』『ウホッホ探検隊』『永遠の1/2』などの作品で着実に評価を高めていく。1990年代中ごろは映画製作から離れていたが1998年に『絆』で復活。鋭い時代の切り取り方、確かな作劇術、細かい演出力、描写力は特に高い評価を得ている。2006年『雪に願うこと』で東京国際映画祭の4部門、第61回毎日映画コンクール監督賞を受賞した。