[ 第1回 ] ロケの現場の空気感が実に良かった
「主演は(伊勢谷)友介だと思うんで、ちょっと居心地の悪さを感じてますけど。でも評価していただいたことは、素直にうれしいと思います」。受賞対象作「雪に願うこと」を見れば、確かに出番は伊勢谷の方が多いものの、見終わって残る印象は、圧倒的な存在感で映画を支えたこの人の演技だった。
帯広・ばんえい競馬の調教師、矢崎威夫。馬を思うあまり厩務員に口より先に手が出る気の荒さだが、根は人情家で皆から慕われている。東京で事業に失敗した弟、学が、十数年ぶりに姿を見せると、身勝手さに憤りながらも受け入れる。2人の間のわだかまりは、少しずつ解けていく。「魚影の群れ」(83年、相米慎二監督)、「海猫」(04年、森田芳光監督)で演じた漁師に通じる、肉体が存在の基盤となる男。
「物語は分かりやすい。役の肉付けは困難ではなかったけれど、威夫のたたずまいが大事だった。威夫の姿に説得力がなかったら、映画が成立しないですから。突然現れた弟を、厩舎の警備員室に迎えに行く最初の登場場面が重要でした。そのファーストカットで威夫が見えれば、いける気がしました。撮影の初日でもあって、出番の数時間前からロケ現場に行って、見ていると空気感が実に良かった。緊張感があって無駄口がない。その空気が役を作ってくれて、自然に入っていけた」
伊勢谷をはじめ若い俳優たちと、帯広で合宿状態の撮影だった。
「伊勢谷君は大らかで繊細な部分が、役にマッチしてた。力を付けてるし、魅力的な役者になってると思いますよ」。後輩たちを見る目も温かかった。
(撮影:毎日新聞写真部 内藤絵美)
1960年、東京都生まれ。
TVドラマ「続・続事件」(80/NHK)でデビュー。スクリーンデビュー作となる『青春の門』(81/蔵原惟繕・深作欣二)でブルーリボン賞新人賞を受賞する。以降、『魚影の群れ』(83/相米慎二)、『敦煌』(88/佐藤純彌)など話題作に出演。『トカレフ』(94/阪本順治)『忠臣蔵外伝四谷怪談』(94/深作欣二)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞などを受賞した。そのほかの出演作に『KT』(02)、『亡国のイージス』(05)などの阪本順治監督作品をはじめ、『あ、春』(98/相米慎二)、『海猫』(04/森田芳光)、『THE有頂天ホテル』(06/三谷幸喜)などがある。また「プライド」(04/フジ)「新選組!」(04/NHK)「けものみち」(06/テレビ朝日)など数々のヒットドラマへの出演も記憶に新しい。