面白さでなく実情再現が目的
受賞作「それでもボクはやってない」は、07年の映画賞を総なめにした。毎日映コンの選考でも、すんなり決定。喜びもさぞかしと思いきや、当人は「賞で話題になって、もう一回見ようという人が増えたらいい」と、ちょっと雰囲気が違う。「今回は面白い映画にしようとは一度も思わなかった」。日本の裁判の実情を知らせることが、最大にして唯一の目的だったからだ。
痴漢事件の被告が2審で逆転無罪となった記事をきっかけに、取材を開始。法曹関係者や冤罪(えんざい)事件の当事者に会ううちに、制度への疑問が次々とわいてきた。取材に3年をかけ、フリーターの青年が満員電車で痴漢と間違われて逮捕されてから有罪判決を受けるまでを、逐一再現した。弁護士や当事者から「ああいう裁判官はいる」「自分の時と同じ」といった声が届いた。
「今の官僚的な裁判では、市民の自由や権利は守られない」と、ことあるごとに訴えてきた。映画監督としても、「この一本では終われない」ときっぱり。
「映画に、実際にないことは一切入れていない。退屈でも、実際の裁判がそうなのだから仕方ない」と“無添加”を強調。それでも先の読めない展開に笑いと情感をからめて観客をくぎ付けにし、興行成績も上々だ。綿密な取材に加え、構成、セリフの妙などの技が随所に光る。監督賞は、血肉になったその映画勘への称賛だ。
「シコふんじゃった。」、「Shall we ダンス?」、11年ぶりの本作と、3作連続で大賞。選考委員からは「巨匠の域に達しつつある」との声も。できれば、もう少し間隔を短めにしてほしいが……。「作りたいという欲求がないと。強い衝動にかられたい」
(文、写真:毎日新聞社 勝田友巳)
1956年東京都生まれ。立教大学文学部仏文科卒業。大学在学中に高橋伴明監督の助監督としてキャリアをスタート。
1984年、『変態家族兄貴の嫁さん』で監督デビュー。1989年、『ファンシイダンス』では修行僧たちの青春をコミカルなタッチで描き注目を集める。1992年、 学生相撲を題材にした『シコふんじゃった。』がキネマ旬報誌ベストワン、日本アカデミー賞最優秀作品賞を獲得。1996年、ボールルームダンスブームを巻き起こした大ヒット作『Shall We ダンス?』は、第20回日本アカデミー賞13部門を独占受賞するなど日本映画の各映画賞を総なめにした。
同作は全世界で公開され、全米での日本映画興行記録を更新するなど、世界的成功を収め、映画史に多くの足跡を残す作品となった。また2004年にはリチャード・ギア主演によるハリウッドリメイク版も製作された。
そして今回、11年ぶりの監督最新作『それでもボクはやってない』が公開。本作のテーマである刑事裁判や痴漢冤罪事件への検証と考察を深めるため、3年にも及ぶ徹底取材を敢行し、まさに“周防流”の社会派映画を完成させた。