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カンヌ映画祭だより


「納得」と「意外」が半々の「殯の森」のグランプリ

 例年にも増して華やかに開かれた「第60回カンヌ国際映画祭」(5月16〜27日)。受賞結果は、並みいる著名監督を抑え、パルムドールに無名の新鋭、 クリスティアン・ムンジウ監督の「4カ月、3週間と2日」、次いでグランプリに河瀬直美監督の「殯の森」。本命と目されたコーエン兄弟の「ノー・カント リー・フォー・オールド・マン」は、まさかの無冠。スティーブン・フリアーズ監督ら審査員の選択は、波紋も呼んだ。

  チャウシェスク政権下で人工 中絶手術をする女子学生の惨めな一夜を描いた「4カ月……」は、人間のエゴを簡潔でストイックな手法であぶり出し、賞レースのトップを走り続けたが、陰鬱 で地味。作品の完成度ならコーエン兄弟、60回記念という華やかな舞台には物足りないかも……、というのが大方の予想だったはずだ。
  授賞式後の会見で「ノー・カントリー……」について聞かれたフリアーズ監督は「いい映画だったよ」と煙に巻いたが、ムンジウ監督は「世界的に知られることになり、オスカーより大事」と大喜び。映画製作本数が10本程度というルーマニアでの苦心作だ。

  「殯の森」のグランプリは「納得」と「意外」が半々、といったところ。公式上映はコンペ22作のしんがりで、受賞を期待させる位置ではあったが、反応が出 揃う前に授賞式を迎えた。今年は死を描いた作品が多く、総じて重苦しかった。「殯」も死がテーマだが、美しい自然や「死と調和した生」といった前向きな結 末など、コンペを安らかに締めくくるにはうってつけ。ドキュメンタリー的な手法による独特の語り口、映像の美しさもカンヌ好みだった。

  話題性でも娯楽性でもなく、やはり作家性。功なり名を遂げた大監督もいいが、新たな才能を。新たな境地開拓への野心は、カンヌの若々しさの源だろう。

  今年は、日本映画に対する評価の内外格差がうかがえた年でもあった。

  カンヌでの河瀬監督は、97年「萌の朱雀」でカメラドールを受賞して以来、知らぬ人はいない。日本での「殯の森」公開が、受賞でようやく30館程度まで広がったのに対し、フランスでは受賞前に約70館が決まっていた。

  あるいは、映画祭が60回記念として製作したオムニバス「それぞれの映画」に参加した北野武監督。世界を代表する35人の一人に選ばれたのだから、欧州では押しも押されぬ大監督なのだ。

  「日本では有名です」と舞台あいさつした日本人が2人。監督週間に出品した「大日本人」の松本人志監督と、批評家週間の「腑抜けども、悲しみの愛を見せ ろ」主演の佐藤江梨子。有名人頼りの国内興行ならともかく、作品主体のカンヌではジョークとしても出来はよくなかった。もっとも、作品はどちらもまずまずの評判で、新鮮な感覚の日本製コメディーの可能性が感じられた。

  日本では最も注目されたらしい、木村拓哉と香取慎吾のカンヌ入りは、現地では話題にもならない。映画祭に便乗した、主演映画のプロモーションとあれば当然だが、2人の海外での知名度はアジアどまりである。

  国内では傍流の2人が、カンヌでは日本を代表する大監督となり、出品したわけでもないのに「カンヌ入り」を喧伝する。90年代後半から始まった、海外映画祭出品を日本興行のテコにする黒船戦略はすっかり定着し、まだまだ有効なようだ。
(勝田友巳)