三留まゆみと松島利行のベルリン映画祭だより-2
世界中が暖冬だったのだろう。第57回ベルリン国際映画祭は2月8日に始まり、その数日間はやや気温が下がったが、降雪はなく、あとはぽかぽか陽気だっ た。市内東西の各所にある会場では約400本の作品が上映され、ほとんどが満員となる盛況で、入場者数は延べ43万人。上映作品はマーケットの1000本 余りを含めると、延べ5000本以上が上映された計算になる。グランプリ金熊賞には中国映画『図雅(トゥヤ)の結婚』を選び、18日に祭典の幕を閉じた。
会期中はあちこちの前売り券売場に市民が長い行列をつくり、また今年から売り出された映画祭グッズのバッグ、Tシャツ、手袋、文具なども大人気だった。ベ ルリン映画祭はカンヌやヴェネチアなどよりもアジア、アフリカ、東欧北欧作品の参加が多い。中国、韓国、印度など多くのアジア映画が話題となったが、日本 映画も桃井かおり監督の長編第1作『無花果の顔』がアジア・太平洋地域の映画を支援するネットパック賞を受けるなど、大いに注目を浴びた。ただ、過去数年 に比べてイラン映画が影をひそめたのは、イラク、レバノンなどでテロと戦火が拡大する中東情勢の影響だろうか、さびしかった。
今年の日 本映画の中心はフォーラム部門での岡本喜八監督作品の特集だった。『肉弾』『独立愚連隊』『暗黒街の対決』『斬る』など9作品が上映された。晩年作品のプ ロデューサーでもあった岡本みね子さんは連日、メーン会場のデルフィーの昼の上映と、ポツダム広場ソニー・センター内シネ・スターでの夜の上映に顔を見 せ、観客に挨拶していた。「熱心なファンに驚きます。『独立愚連隊』や『暗黒街の対決』など、私たちの新婚時代の作品がいまベルリンで多くの観客に見てい ただいていることに、改めて感激しています」と、みね子夫人。ベルリンで3回忌を迎えた。
時代劇、現代劇を問わず館内はほぼ満員、そのユニークなアクション喜劇に笑いが起こり、盛り上がった。ただ、その斬新な映像が30年も40年も昔の作品であることを、ドイツやフランスの評論家やファンに伝えるのは、なかなか骨の折れることでもあった。
日本では大手映画会社のプログラム・ピクチャー、娯楽作品が海外に売られたり、映画祭に出品されることは最近までめったになかった。東南アジア市場に出た 大映作品など一、二の例外はあるとしても、日本の映画会社は海外の映画祭について無関心だった。70年前後から大島渚らが積極的に海外映画祭に出品をはじ め、80年代になると多くの若手作家が海外を目指すようになる。小津安二郎、黒澤明、成瀬巳喜男、鈴木清順、今村昌平らだけでなく、石井聰亙、黒澤清、三 池崇史、清水崇、中田秀夫らも欧米に広く知られている。
若手だけでなく戦後日本映画を代表する監督たちを持って知ってもらいたい。そうした動きの中から、昨年は中川信夫作品がフォーラム部門で特集されたが、岡本作品もヨーロッパに紹介されるのは今回が初めてだった。
(松島利行)