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学生映画見聞録

2006年9月のMVP

流れる時の中で見つけた、流れない時「記憶」 博士の愛した数式

映画は高校教師のルート(吉岡秀隆)が新学期、新しいクラスの担任として自己紹介をするところから始まる。彼がルートと呼ばれるようになった経緯、それは 彼の母親(深津エリ)の仕事先にいた一人の天才数学者との出会いによってである。天才数学者は事故の後遺症で記憶が80分しか持たない。働いているわけで もなく、ただひたすら数字と対話している博士(寺尾聰)との間でドラマは展開されてゆく。博士は数字(記号)を気持ちとして記憶し、その位相の美しさを追 究している。博士の目を通した数字の世界は美しく、暖かい。普段我々が感じていながらも、中々口にする事が出来ない人同士のつながりを、いとも簡単に数字 で伝えることができる。次第にルートとその母親は博士の世界に魅了されてゆく。劇中に何度となく現れる海、川の流れは、人間の生きている時間がとめどなく 流れている事を感じさせる。その時の中で生きる私たちに一つだけ流れないものがある。それは記憶。80分しか記憶が持たない博士からそのことを感じるのは 矛盾があるように思える。しかし記憶は必ずしもその人物の中だけにあるのではない。虚数、能、野球のグローブ、外界にある様々なものを通じて、記憶は存在 し続ける。ドラマティックな演出も脚色もないが、人が生きる本質を提示してくれる映画である。


投稿者:武蔵野美術大学大学院映像コース 1年 石橋悠子

[ 映画情報 ] 博士の愛した数式
監督 ● 小泉堯史
主演 ● 寺尾聰 深津絵里 吉岡秀隆
製作 ● 「博士の愛した数式」製作委員会
公開 ● 2006年鑑賞情報 ● DVD