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学生映画見聞録

年間大賞2006

よみがえる不在 ――横浜の街と一人の女性 ヨコハマメリー

 かつて「ハマのメリーさん」と呼ばれる老婆がいた。純白のドレス姿で白粉を塗りたくった風貌は、舞台役者のようでもあった。大きな鞄を引きずり、街角に 立つ彼女は、生涯現役の娼婦だったという。ある者にとっては都市伝説のヒロインであり、ある者にとっては伊勢佐木町の風景であり、ある者にとっては戦後を 生き抜いた女の象徴でもあった。だが、ある日を境にメリーさんは街から消えてしまう。

  カメラは不在のメリーさんを追い求める。彼女を知 る様々な人物が召喚され、その人生が語られると同時に、横浜の街、日本の戦後史が紡ぎだされていく。彼女を援助したシャンソン歌手、撮影した写真家、表現 した女優・作家・舞踏家……数多の証言が、集合的記憶としてのメリーさんを甦らせていく。

  カメラは痕跡を追い求め、不在を具現化する。 メリーさんの高い声は、化粧品店の女主人によって再現される。以前メリーさんが立っていた場所が紹介されるときには、当時の写真がオーバーラップされる。 新聞や監視カメラの映像など、様々な方法で記憶が具体化されていく。しかし、それらはあくまで痕跡でしかない。本当のメリーさんに会いたい、そんな切なさ が観客の胸を刺す。

  言説の迷宮の果てに、「メリーさん」はそっと姿を現す。しかしその人は、私達が見てきたどのメリーさんとも違う。自分のやり方で生きてきた一人の女性が、忘れ得ぬ微笑みで迎えてくれるとき、暖かな感動があなたを包むだろう。


投稿者:立命館大学大学院文学研究科・三回生 友田義行

[ 映画情報 ] ヨコハマメリー
監督 ● 中村高寛
公開 ● 2006年鑑賞情報 ● 京都みなみ会館