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学生映画見聞録

2007年7月のMVP

永遠の八月 八月の狂詩曲

 長崎市街から離れた山村を舞台に、被爆体験をもつ祖母と、孫たちの一夏を描くドラマ。黒澤明監督は以前にも核をテーマにしていたが、本作は戦争を個人の記憶から見つめ直す映画だ。

  夏休みを迎えた四人の孫と両親が、祖母・鉦(かね)の家を訪れた。そこへ鉦の兄・錫二郎が重篤であるとのエアメールが届く。彼はハワイの大富豪。その息子クラークからの手紙に両親は色めき立ち、ハワイに飛び立ってしまう。

  残された孫たちは祖母との田舎生活に退屈するが、やがてこの地に残された原爆の傷跡に気付く。目の前の長崎の下に、壊滅したもうひとつの長崎がある。そして鉦の心にも、灰の下で燻り続けるような思いがあった。

  鉦は兄に会う決心をし、手紙を送る。そこには夫が原爆死したことも記されていた。クラークはショックを受け、日本を訪れる。たどたどしい日本語で悔やみの言葉を述べる彼に、鉦もまた片言の英語で答え、和解が演出される。

  そこへ錫二郎の訃報が入る。「早く会いに行くべきだった」深い悔恨の淵に落ちる鉦。その後、鉦の記憶は徐々に逆行し、時に錯乱状態に陥るようになる。

  夕立の稲光に反応した鉦は、傘を裏返す暴風雨の中、長崎へと歩き出す。戦争や核といった大きな概念は胸中にない。ただ自分の愛する人が永遠に奪われた、そ の痛烈な経験に向かって突き進んでいく。「どうしてあのシーンで涙が止まらなくなるのか」観客の問いに黒澤監督は答えた。「それが映画なんだよ」


投稿者:立命館大学院文学研究科・四回生 友田義行

* [ 映画情報 ] 八月の狂詩曲
*監督 ● 黒澤明
*主演 ● 村瀬幸子
*公開 ● 1991年鑑賞情報 ● DVD