まずすそ野を広げてオープンでエキサイティングな映画・映像教育を!(連載第5回)
Q 映像学部はありませんが、非常にオープンで魅力的な講座を展開されていますね。
もちろん映像学部をつくる、ということも検討しました。たしかに映像学部を作れば、映画づくりについては教えやすいでしょうね。カメラワークや演出の仕方などいわゆる映画づくりのノウハウは教えることができます。でも問題はそれでいいのか、ということですね。高校を出たばかりの若者が映画の方法論の世界にどっぷり浸かってしまうのがいいんだろうか。映画づくりにとって何が一番大切かというと、自分が何を表現したいのかということです。やむにやまれず表現したい何かを持っているのかどうか。別の言い方をすると、人間を知ること、人間を語ることが大事なので、いきなり方法論の世界に入っていくことがいい映画をつくることにはならないと思うのです。
早稲田には5万人の学生がいます。映像学部で50人や100人を募集するより、5万人の中から監督やプロデューサーが出てくればいい。もともと映画監督というのは1000人にひとり、1万人にひとりという世界でしょう。それと同時に、もっといろんな分野で映画にかかわる人材が出てきてほしい。優秀な銀行マンがエンタテインメントファンドをつくるとか、映画の権利関係や契約にくわしい法律家が出てくるとか、さまざまな形で映画に関わってくれる人材を輩出したいのです。
「マスターズ オブ シネマ」では、山田洋次、奥田瑛二、曽利文彦、大林宣彦、小栗康平、是枝裕和、篠田正浩といった第一線の錚々たる監督たちが登場します。未来を担う映画人づくりのため、早稲田のこの試みに共鳴しての友情出演です。そしてこの広いすそ野のピラミッドの頂点からたとえば大学院(GITS ※)で本格的に映画に取り組む若者が現れ、そこから監督やプロデューサーが生まれる、そういう教育システムを志向したのです。
※GITS:早稲田大学大学院国際情報通信研究科
(以下次号)
あんどう こうへい 1944年 東京都生まれ
パリ留学後、寺山修司の天井桟敷に在籍。TBSを経て、現在、早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授。
69年「オーマイマザー」(オーバーハウゼン国際映画祭入賞)、71年「息子達」(トノンレバン国際映画祭グランプリ)、94年「アインシュタインは黄昏の向こうからやってくる」(HD。ハワイ国際映画祭銀賞)、98年「フェルメールの囁き」(HD。モントルー国際映像祭グランプリ)などの作品がある。
映画監督の仕事の難しさが少し見えてきた(第2回)
田淵史子さん GITS2年生 桐朋学園演劇科卒
映画監督というのがどういう人なのか、ということもわかってきましたね。誤解を恐れずに言うと、映画監督の仕事というのはあまり大したことはないなあと思いました。つまりプロフェッショナルがまわりをがっちり固めていて、それぞれが真剣でかつ個性あふれる仕事をするわけですから、監督自身は特に何かができないといけないというわけじゃありません。監督というのは個性あふれるプロたちをチームとしてまとめていくのが仕事です。全体の雰囲気をつかみ、全体がいつも見えていて、それを自分の考えている方向に引っ張っていく力が必要なんですね。結局それが一番難しいのかもしれませんけど。
早稲田の講座や大学院(GITS)のいいところは、多面的なところですね。入り口も、たぶん出口もひとつではなくて、いろんな角度から映画が見られるようになってきました。映画が好きな人たちだけのものではなくて、映画にまつわるさまざまなことに興味が持てるように組まれているところがいいと思いますね。(おわり)