<マスターズ・オブ・シネマ2008> 7月19日 早稲田大学8号館
共同監督の撮影現場では、ハプニングが次々と。

谷川俊太郎 VS 覚和歌子
4月に開講した、安藤紘平教授が主宰する人気講座、マスターズ・オブ・シネマも今回が最終回。当サイトでも紹介した橋本忍、山田洋次のビッグ対談をはじめ、行定勲、久石譲、降旗康男、是枝裕和、大林宣彦など第一線で活躍する映画人が毎週登場してきた。500人を超える学生を前に掉尾を飾るのは二人の詩人。共同監督作品「ヤーチャイカ」をめぐって、「映像と言葉」について丁々発止の対談となった。
谷川俊太郎さんは、言わずと知れた現代詩の大家。覚和歌子さんは「千と千尋の神隠し」の主題歌「いつも何度でも」の作詞などで知られ、独特な世界を拓く作詞家・詩人。谷川さんは、市川昆監督の「東京オリンピック」制作に関わったことがあり、監督業の厳しさはよく知っている。しかし写真映画ならできるかもしれないと、覚さんに請われて監督を引き受けてしまった。ところが実際に静止画を撮り、それに言葉をつけていくのは想像を絶する難事業。おまけに撮影現場でも、編集作業でも二人の意見は激突する。もともと監督を共同でやること自体に無理があるのだが、覚さんは、谷川さんに「何回も本気で跳び蹴りをしようかと思いましたね」と笑わせる。
1万枚の写真の中から1千枚を選び出す。
実力派の俳優、香川照之を主役に起用。「香川さんとは大変気が合った。よく演じてくれた」と、谷川さんの弁。無表情、取り残された感じ、呆然とした表情と、3種類の表情を注文したが、それぞれを見事に演じ分けてくれたそうだ。動かない写真の連続で成り立っているので、写真家に決定的な瞬間を任せなければならない。写真家への具体的な注文には、絵コンテを描いたという。当初300枚くらいあれば、と思っていた写真だが、結局撮った数は1万枚。その中から1千枚を選び出した。最後のシーンは夕焼け。「星空」が全体を貫くモチーフだが、「終わるような夕焼けの空に星空が始まる」ので、夕焼けが浮かんだそうだ。詩人ならではの美しいシーンである。
二人の詩人による芸術的なバトルの連続で作品は完成。
静止画の連続だけで、観る人の心をいかにつかむか、「飽きさせない」ためには、どうしたらよいか。覚さんは「物語詩」の作家。一方、谷川さんは「瞬間の生」を大事にする詩人。覚さんが、「俊太郎さんは、もの忘れがひどく、歴史というものを自分に持たないんです」とこぼせば、谷川さんは「瞬間の詩人だから、しょうがないでしょ」と茶目っ気たっぷりに返す。覚さんはさらに「“忘却の天才”が、撮影現場のスタッフや編集作業をする時の私たちを、いかに悩ませたことか」と追い打ちをかける。『詩を書くうえで重要なことは?』という学生の質問に、覚さんは「締め切りです!」とかわし、谷川さんは「他者のまなざし」と受ける。両者の絶妙なやり取りに教室は爆笑の渦に。
二人の詩人の信頼感に裏打ちされた激しいバトルは、モノづくりにとってイマジネーションがいかに大切なものかを受講生に教えてくれる。映画・映像制作を志す学生たちにとって、またとない貴重な時間となった。